研究概要 |
コンパクトなミトコンドリアDNA(mtDNA)は,DNAレベルからの魚類の集団解析や系統解析の第1義的な手がかりとして注目されるところとなっているが,その進化様式についてはまだ不明な点が多い。そこで本研究では,魚類のmtDNAの進化特性を,とくに2つのリボソームRNA遺伝子,いくつかのタンパク質遺伝子,それに制御領域のそれぞれについて解析するとともに,それらの領域の塩基配列データを用いて,どのDNA領域をどのようなデータ処理法によって扱ったらよいかという点に留意しながら,実際に魚類における集団構造解析,近縁種間の系統解析,遠縁種間の系統解析などを進めた。その結果,概略つぎのような点が明らかになった。1)種内集団や近縁種間の系統解析には,制御領域の解析が適切であるが,魚類グループによっては,この領域の変異性が必ずしも高くない場合もある。2)科間レベルといった遠縁グループの系統関係の解析には,リボソームRNA遺伝子の塩基配列データだけでは,2つ分を足しても不足する可能性が高い。3)遠縁のグループの比較には,多くのタンパク遺伝子の情報を足し合わせるとよさそうである。4)複数のタンパク遺伝子情報を活用して,魚類を対象にしたいわゆる「分子時計」の本格的較正をすることができた。なお,この研究の過程で,ロングPCR法を利用した非常に効率的な全mtDNA増幅および塩基配列決定法を魚類を対象に確立できた。次の研究ステップでは,この手法を最大限に活用して多数の魚種のmtDNAの全体像を明らかにし,mtDNA全塩基配列データを用いて魚類の主要分類群間の系統関係をより詳細に検討していきたいと考えている。
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