研究概要 |
人と家畜との関係を改めて考えてみると曖昧な点が多い.特に最近では,食糧供給を担っている経済動物と消費者との距離がかなり遠くなってしまい,人間と家畜との関係が希薄になっている.また,伴侶動物を含めた家畜に対する私達の動物観も時代とともに変容しつつある.ところが,家畜の生産現場では,人と家畜との関係が最近になって見直されつつある.管理者のある種の振る舞いや取り扱い方が家畜を怖れさせ,家畜の繁殖能力や成長が低下することが牛や豚などで報告されている.一方,人と家畜と関係が良好な農家では生産性が高いという報告もある.しかし,家畜が人と接した経験を元に特定の人を識別して怖れを抱いたり馴れたりするのか,あるいは人全般に対して一律の反応をするのかについては明らかになっていないため,人と家畜との関係を向上させる具体的な管理技術の開発には至っていない.本研究では,文献研究,実地調査,人に対する家畜の認知能力の行動学的研究という3つのアプローチによって,人と家畜との関係の向上を試みた.文献研究と実地調査の結果,「人と家畜との関係」に対する認識は日本と西欧との間で異なる点も多いが,家畜を適切な管理技術で飼育することが必要だという認識においては一致していることが明かとなった.そこで適切な管理技術の開発の一助となるための認知行動学的研究を行った.その結果,牛,豚共に,管理者を識別する能力はかなり高く,識別は主として視覚に頼っていることが明かとなった.これらの家畜は,衣服の色はもとより,顔,体格の違いによっても人を識別することが可能であった.つまり,家畜は人を一般化して怖れたり馴れたりしているわけではなく,取り扱われた経験をその行為者と結び付けて学習していることが示唆された.このことから,今後は家畜管理者の採用に際して適性試験,家畜の取り扱いについての管理者に対する教育が必要であると考えられた.
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