研究概要 |
柴犬3頭を用い,ヒトの試視力用のランドルト環と,その切れ目をなくした円図形とを用い,それぞれ負または正刺激として飼料と連合学習させた.二者択一式のY字型迷路を自作し,図形の大きさまたは図形までの距離を変化させ,両図形の識別の可否から視力を判定した.左右の図形の交換は,乱数表に従った.図形の各大きさごとに原則として15セッション行なうこととし,1日に2セッション実施した.各セッションは30試行とし,そのうち21試行以上の正刺激の選択(P<0.05)が3セッション連続すれば識別可能とした.この基準値に達しなくなった時点をもって,その個体の視力値の限界と判定した.その結果,3頭の視力は0.33,0.24および0.23と判定され,ウシ(0.045〜0.08)やヒツジ(0.085〜0.19),ブタ(0.017〜0.07)に比べてやや優れていた. 柴犬4頭を用い,二者択一式の同時弁別法により,カードに表示されたドット数の違いを弁別させた.図形として記憶しないように,ドットの大きさや配置を無作為に変えて,1つの数に付き30種類のカードを作成した.まず正刺激を「3」として「3」vs「1」,「3」vs「5」,「3」vs「2」,「3」vs「4」のように,正刺激と負刺激の数の差を-2,+2,-1,+1の順に弁別させた(実験装置および判定基準は視力と同様).正刺激「3」が弁別できたら,正刺激を1ずつ大きくしていき,同様に弁別させた.その結果,1頭は正刺激「8」まで,2頭は「7」まで,1頭は「5」までを他の数と弁別することができた. 弁別学習の成立過程に伴う行動と心拍数の変化を調べたが,学習段階と心拍数の間には明確な関係は見いだせなかった.しかし,弁別装置の「スイッチを押す」,「鳴く」,「静止」などの行動と心拍数との間に相関が認められ,これらの行動形が学習時における情動的緊張の程度を把握する指標となりうることが示唆された.
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