研究概要 |
本研究では,扁平上皮細胞特異的なカルシウム情報伝達機構について解析を試みた。結果,新しい知見として,以下の2点を得た。 1)扁平上皮細胞で特異的に発現する細胞内カルシウムセンサーCAAF1(S100A12)に注目し,その相互作用分子を直接的に同定を試みた。結果,CAAF1が自己結合能を有する事,さらにカルシウムのみならず,亜鉛イオンにたいしても濃度依存的に自己多量体を形成する事を発見した。このことは,扁平上皮細胞カルシウム情報伝達系内でのCAAF1の作用が,単に,単一分子間作用で説明できるものではなく,細胞内カルシウム濃度と亜鉛等の2価金属イオン濃度環境によって,変化している可能性を示している。 2)扁平上皮細胞のin vitro分化モデルを用いて,細胞増殖能を維持した幼若な扁平上皮細胞と扁平上皮細胞がん細胞,あるいはカルシウムにより分化した扁平上皮細胞の発現遺伝子の比較し,扁平上皮細胞が示すカルシウム感受性の担体分子候補としてS100Pを単離した。S100PはCAAF1を含めたS100A蛋白ファミリーに属し,扁平上皮細胞のカルシウム情報伝達系にS100蛋白ファミリーが深く関わっている事が示唆された。 また,扁平上皮細胞特異的なカルシウム感受性の解析のためのToolとして,新しいモノクローナル抗体NJ-E-F8を得ることができた。この抗体は食道上皮細胞の増殖を抑制すると共に,その抗原は細胞外カルシウム濃度依存性に局在を細胞内から細胞膜へと移動する。 細胞内カルシウム情報伝達系の解析は,従来,膜系のイオンチャンネルを中心に進められてきたが,カルシウム伝達機構の膜系以降の経路は,今なお,ブラックボックスである。今回得られた知見は,このブラックボックス,特に,細胞増殖抑制機構の解明に有用と思われた。
|