研究概要 |
16例のWilms腫瘍と10例の泌尿生殖器腫瘍についてIGF2遺伝子及びKIP2遺伝子について,genomic imprintingの状態,遺伝子のメチル化について検討を行いました。 IGF2のimprintingの状態はそれぞれの腫瘍で正常が7例と5例,ヘテロ接合性の喪失が4例と2例,relaxationが5例と3例に認められました。KIP2のimprintingの状態は解析できた症例7例全てで正常に保たれており,これらの遺伝子は非常に近い遺伝子座にあるにも関わらず,異なった機構で調節されていることが示唆されました。 次いで,imprintingと遺伝子のメチル化について検討しました。IGF2遺伝子36kbp全長にわたって13のDNA断片をプローブとして用い,メチル化感受性のHpaIIと非感受性のisoschizomerであるMspIによって消化したWilms腫瘍DNAに対してサザン解析を行った所,genomic imprintingと相関するメチル化はプロモーターの2kbp上流に認められ,これはimprintingによって抑制された母方由来のアレルに特異的でした。IGF2他の部位は全て低メチル化状態であり,この知見はマウスで既に報告されているものとは異なっており,ヒトにおいてはマウスとは異なったimprinting調節機構の存在を示唆する結果であり,Wilms腫瘍発生のメカニズムとIGF2遺伝子のgenomic imprintingの異常との関わりが示唆されました。KIP2遺伝子においては解析した全症例において遺伝子全体にわたって低メチル化状態を示しimprinting特異的なメチル化は認められませんでした。この結果も2つの遺伝子が近傍に(11p15.5)存在するにも関わらず,genomic imprintingに関して異なった調節を受けていることを示唆するものです。 KIP2遺伝子の変異については研究を継続中で未だ一定の見解が得られていません。 これらの研究の成果の一部はSallivan MJ,Taniguchi T,Jhee A,Kerr N,Reeve AE.Oncogene(1999)18,7527-7534に発表しました。
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