研究概要 |
癌原遺伝子産物Ras蛋白は、細胞の増殖、分化など多彩な生物学的機能を制御する低分子量G蛋白で,ヒト癌において高頻度に変異を受け,常に活性化された状態となる。活性化されたRas蛋白と特異的に結合し,そのシグナル伝達に関与すると考えられている標的蛋白には,よく研究されているRafの他に,RalGDSがある。RalGDSは低分子量G蛋白Ralに対するGDP/GTP交換反応促進蛋白である。 1)活性化されたRas蛋白は特異的にRalGDSと結合し,その結果さらにRal蛋白を活性化すること, 2)活性化されたRal蛋白はRasやRafの造腫瘍能を増強させ,逆にドミナント・ネガティブ型のRal蛋白はRasやRafの造腫瘍能を抑制すること, 3)活性化されたRal蛋白の標的として二つの蛋白を同定したところ,ホスホリパーゼDおよび新規のCDC42/Racに対するGTPアーゼ活性促進蛋白(RalBP1)であった。 そのRalBP1に結合する新規のシグナル伝達蛋白Reps(RalBP1 associated epshomology domain protein)のクローニングに成功した。この蛋白はEGF受容体基質(eps15)様領域,EF-handモチーフ,SH3領域が結合すると思われ2ヵ所のプロリンに富む領域,および3つのMAPK基質領域(PXS/TP)を有している。この蛋白はRalBP1と複合体を形成し,チロシンキナーゼ,Caイオン,SH3領域をもつ蛋白やMAPKを介するシグナル伝達系とクロストークするものと考えられる。また,この蛋白にはエンドサイトーシスに関与するEpsinやEps15が結合することが判明した。さらに,活性化Ralは癌原遺伝子産物であるc-srcを活性化することが判明した。
|