研究概要 |
高血圧性脳出血や脳深部の多発小梗塞および脳血管性痴呆等の共通の原因病変である脳内細小動脈硬化ことに中膜壊死に着目し、病変の進行する過程において、動脈壁自体が、どのようなリモデリング反応を示すか、また脳動脈中膜壊死は脳内の立体分布で、どのような部位に多いかを日本人の剖検脳を用いて検討した。 「方法」:正常圧で灌流固定された剖検脳標本を用い、高血圧群17例と、非高血圧群21例とに分け、それぞれ脳底部の内頚動脈末梢部(C1)、中大脳動脈M2部、脳内動脈の穿通枝(PA、脳底部より1-1.5cmの外側線条体動脈および皮質より入る髄質動脈(long medullary artery, 直径約200-300μm)につき、中・内膜、内腔の各面積および壁圧、半径、狭窄度(内膜/内弾性板領域)等を画像解析・自動計測装置にて測定し、相互の相関性を検討、さらに動脈壁にかかる壁張力を算出し、壁張力とリモデリングとの相関をも検討した。また、内腔、内膜、中膜、外膜をトレースして、三次元立体化ソフト(OZ95)にインプットし、3D再構築化し、壁構築と壁病変を立体的に再構築し、部位的なリモデリングの相違の検討やマッピングを試みた。 「結果・考察」:その結果、脳底部動脈および脳内動脈では、内膜肥圧の程度に応じて内腔を保持する血管径の代償性拡大によるリモデリングが行われ、両者に有意な相関をみた(C1,M2:p<0.05,PA:p<0.001)。また加齢や高血圧で脳動脈中膜が菲薄・拡張した壁には、中膜のみで構成される壁への張力Tは極めて高値になるが、この壁は肥厚した内膜が加わり壁圧が増すことで、その張力はいずれもほぼ均等な低値となり、内膜肥厚は拡張壁にかかる張力増大の安定化の役割を担った。これに対して、300μm以下の脳内動脈硬化の特徴像は、中膜壊死、線維化や硝子化など退行性病変が主体で管腔の拡大を伴うことが多いが、内膜肥厚による増殖性病変は少ない。このため、壁張力増大を低下させるための安定化要因が乏しく、壁破綻による脳内出血をもたらす要因となっていると考えられた。三次元立体的な病変の相互関係をみると、高度な中膜壊死をきたす部位は、外側線条体動脈(穿通枝)では分岐部または分岐部直後、髄質動脈では、屈曲部直前の部に高率に見られた。このことから、動脈の中脈病変の成り立ちには、血行力学的因子が大きく関与しているものと考えられた。
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