研究概要 |
私は、成熟ラット肝臓より肝幹細胞の一種と考えられる small hepatocytes を分離培養し、成熟肝細胞に分化させ、肝非実質細胞との相互作用により3次元的な立体構造を構築することを見いだした。small hepatocytes はDMEMに10%胎児血清、10mM nicotinamide,1mM ascorbic acid phosphate,10ng/ml epidermal growth factor などを加えて培養すると3ヶ月以上にわたってクロナールに増殖する。20日間で約100個以上の細胞からなるコロニーを形成する。Small hepatocytes は肝細胞のマーカーである。albumin,transferrin,cytokeratin8 と18などを発現している。一方、未熟な肝細胞などにその発現がみられるα-fetoprotein,cytokeratin14,OC2,GST-Pなどは培養初期のsmall hepatocytesにはほとんど発現していない。small hepatocytes を肝非上皮細胞である肝上皮様細胞や類洞内皮細胞、kupffer 細胞、星細胞などと共培養して2〜3週間ほど経つと、コロニーの上に盛り上がるように増殖してくる大型の細胞をよく見るようになる。そのようなコロニーの縦断面を観察すると small hepatocytes コロニーの下に非実質細胞が潜り込んでいる。比較的扁平な small hepatocytes がその体積を増し立方体や直方体の細胞になっている。それら大型の細胞ではミトコンドリア、ぺルオキシゾーム、小胞体などの細部内小器官が発達し、グリコーゲン顆粒を豊富に持っている。肝細胞と非実質細胞の間には細胞外基質が蓄積しており、基底膜様構造を形成しているものと考えられた。実際、その構造にはtype I,type III,type IV collagens,Iaminin が沈着しており、また培養細胞がそれらの mRNA を発現していること、培養液中に細胞外基質を多量に分泌していることを、Northern blot法,Western blot法を用いて確認した。また、small hepatocytesのコロニーが3次元構造を作る時期に一致して、成熟肝細胞に発現する tryptophan 2,3-dioxygenase やconnexin32 の mRNAが発現するようになる。又、urea cycle に関係する酵素の glutamine synthetase やcarbamoylphosphate synthetase I も盛り上がった細胞に強く発現するようになる。これら大型の細胞は形態学的にも生化学的にも成熟肝細胞ということができる。この盛り上がった細胞の上を非実質細胞が覆うと肝細胞は腺腔を形成する。small hepatocytes は非実質細胞と細胞外基質の誘導により成熟化することがわかった。
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