研究概要 |
肝細胞癌細胞浸潤・転移のメカニズムを検討する目的で、最初に、【1】肝癌細胞の運動能に関する検討を行った。その結果、deletion type hepatocyte growth factor(dHGF)によりchemokinesisあるいはchemotaxisの亢進が10株中2株の肝癌細胞株で認められた。肝細胞癌細胞は、dHGFの放出源である癌細胞周囲組織あるいは血管内皮細胞との間には濃度勾配を保った状態で接していることから、癌細胞の脈管侵襲の一つの機序としてdHGFによるchemokinesisあるいはchemotaxisの亢進が関与している可能性が考えられた。次に【2】肝癌細胞の5種類のMatrix metalloproteinase(MMP-2,MMP-7,MMP-9,MT1-MMP,MT2-MMP,MT3-MMP)とそのインヒビターであるtissue inhibitor of metalloproteinase(TIMP-1,TIMP-2)の発現に関して検討を加えた。肝細胞癌及び非癌部の免疫染色では、MMP-2,MMP-9,TIMP-2,MT3-MMPの発現頻度や発現量が高い傾向を認めた。MMPやTIMPを発現している細胞(組織)は、肝癌細胞、肝細胞、胆管上皮以外に線維性結合織、クッパー細胞、血管内皮細胞、線維性の間質など多岐にわたった。ELISAによるMMP-2の定量結果は、癌部と非癌部での発現量に顕著な差はみられなかったが、活性型MMP-2は非癌部での発現が高い傾向を認めた。最後に、【3】肝癌細胞株を用いたMMPやTIMPの発現及びサイトカイン・増殖因子による発現調節の検討の結果、すべての細胞株で比較的高いレベルのMMP-2とMMP-9の発現を認めたが、TIMP-2とMT1-MMPに関しては、低レベルの発現で、MMP-7,TIMP-1,MT2-MMP,MT3-MMPに関しては大部分で発現を認めなかった。今回検討した11種類の細胞株のうち、7株は、ほぼすべてのサイトカイン前処置により細胞のMMP-2の発現が抑制される傾向がみられた。MMP-2,MMP-9,TIMP-2,MT1-MMPの結果に関しては、細胞株における結果と組織の結果が良く相関していた。以上、癌組織間質あるいは周囲の非癌部のdHGFやMMPなどの発現が肝細胞癌の浸潤・転移に関与している可能性が示唆された。
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