研究概要 |
1.本研究では、まずがんの転移との関連が議論されている血管内皮増殖因子(VEGF-A,-B,-C,-D)に注目し、その遺伝子発現をヒト肺腺がん外科材料60例で検討した。その結果、リンパ節転移(+)の群では、転移(-)群に比べ、VEGF-Dが低く、VEGF-A,-B,-Cが高い傾向を認めた。またリンパ節転移巣が1cm以上の症例は、1cm未満の症例よりVEGF-Aが高いことを見い出した。以上の結果は、がん細胞のリンパ管侵襲の段階においてVEGF-Cが関与し、また転移巣での増殖にVEGF-Aが関与しているという仮説を支持するものと考えられた。 2.がんの浸潤先端部におけるがん間質相互作用には、血管新生の他、がん細胞自身の運動能の亢進などの現象が示唆されている。近年、基底膜の構成蛋白であるlaminin-5にがん細胞の浸潤促進作用があること、またいくつかのがんの浸潤先端部においてlaminin-5が誘導されている、などの報告が見られる。そこで早期肺腺がん102例についてlaminin-5の発現を免疫染色にて検討したところ、(1)laminin-5の発現は、肺胞上皮がんではほとんど認められなかったが、浸潤がんの線維性間質に接する部位、間質が豊富でがん胞巣が小型の部位に強い発現が認められた。(2)単変量解析、多変量解析のいずれにおいても、laminin-5の強発現が独立した予後不良因子であることが明らかとなった。 3.肺腺がん細胞肺腺がんの培養株におけるラミニン-5の遺伝子発現レベルを検討したところ、erbB-2の発現、あるいはMAPKの燐酸化等とラミニン-5のmRNAレベルが相関すこと、TNF-α、IL-1β、TGF-α、HGFの添加により、細胞間で差はあるものの、ラミニン-5γ2鎖mRNAの誘導が時間依存的に起きることを見いだした。
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