研究概要 |
カベオリンは、細胞膜のカベオラと呼ばれる陥入部の主要なタンパク質で、シグナル分子をはじめ種々のタンパク質や脂質と結合することから、様々な細胞現象に関与していることが示唆されている。哺乳類では独立した遺伝子でコードされているカベオリン-1,-2,-3が同定されていて、カベオリン-3(CAV3)は主として分化した筋細胞に発現している。CAV3遺伝子異常による筋ジストロフィー(LGMD1C)では、骨格筋細胞膜のCAV3が著しく減少している。われわれは、CAV3遺伝子異常による筋ジストロフィーの病態解明およびCAV3の生体内での機能の理解を目的として、ジーンターゲティング法でCAV3欠損マウスを作製しその解析を行った。マウスCAV3遺伝子をクローニングし、重要な機能領域をコードしているエクソン2領域をNeoカセット置換によって欠失させるターゲティングベクターを作成した。報告されているLGMD1Cの変異はこの領域内に含まれる。マウスES細胞を用いる常法によりCAV3欠損マウスを作製した。マウス骨格筋でのCAV3mRNAおよびCAV3の発現をノーザンブロット、イムノブロット法および免疫組織化学で解析した。骨格筋細胞膜のカベオラ数をフリーズフラクチャー法で調べた。筋病理組織所見は、HE染色およびEvans blue dye(EBD)による生体染色で観察した。サザンブロット,PCR解析により、ヘテロおよびホモ変異マウスを確認した。いずれの変異マウスも30週令まで発育および繁殖に異常はなく、正常型マウスとほぼ同様に体重が増加した。ホモ変異マウスはノーザンブロット、イムノブロット解析でCAV3のmRNA、タンパク質共に検出されなかった。ヘテロ変異マウスでは正常サイズのmRNA、タンパク質共に検出されたが、その量は約半分であった。骨格筋細胞膜のカベオラ密度はCAV3発現量の減少に伴って減少していた。ホモ変異マウスの横隔膜ではEBD染色性の筋線維がみられたが、ヘテロ変異マウスでは正常型マウスとほぼ同様にみられなかった。下肢筋組織のHE染色像では、8週令のホモ変異マウスsoleus muscleで壊死・再生像がみられ、12週令では中心核筋線維がみられたが、ジストロフィンやサルコグリカンの欠損マウスに比べ軽度であった。ヘテロ変異マウスでは、筋組織に顕著な病理像がみられなかったことから、エクソン2領域を欠失させたCAV3欠損マウスでは、ホモ変異においてのみ軽度な筋ジストロフィーが発症することが明らかになった。
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