研究概要 |
チトクロムP4502E1(CYP2E1)は,ミクロソームエタノール代謝系に含まれ,飲酒歴が長期にわたる場合やアルコールを大量に摂取した際に誘導されてくることが知られている.しかし,どの程度誘導されてくるかを具体的に評価した報告はほとんど見当たらなかった. そこで,本研究では,CYP2E1誘導の程度を,CYP2E1mRNAの発現量を定量することにより評価する方法を確立し,それを用いて,CYP2E1誘導の程度とアルコールに対する感受性の個人差との相関を検討することを目的とした. ヒトリンパ球に発現しているCYP2E1mRNAは,RT-PCR法により確認可能となった(定量的RT-PCR法)ので,この方法を用いて,飲酒習慣のある男性並びに日常ほとんど飲酒しない男性を対象として,末梢血よりリンパ球を採取し,CYP2E1mRNAの発現量を比較したところ,両者に差異は認められなかった.また,被験者をALDH2の遺伝子型により分類し,末梢血を採取後,直ちに飲酒時のアルコール濃度となるようアルコールを添加し,37℃で一定時間インキュベートした.その後,同様の方法で,リンパ球を採取し,mRNAを抽出,定量的RT-PCR法を用いてCYP2E1mRNAの発現量を測定したところ,どの群においても差異は認められなかった.すなわち,これまでのところでは,CYP2E1mRNAの発現量は,飲酒習慣の有無,あるいはアルデヒド代謝活性の強弱により変化しないということが示唆された. 本研究に付随して,健康成人485名のアルコール代謝酵素の遺伝子型の検出を行い,地域別のアルコール消費量と各酵素の遺伝子型の出現頻度の関係について調べたところ,ALDH2*1の遺伝子の出現頻度のみが,日本列島のほぼ真ん中に位置する近畿,東海,北陸地方出身者において最も低いことが判明した.しかし,地域別アルコール消費量とALDH2*1遺伝子頻度に明らかな相関関係は認められなかった.
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