研究概要 |
法医病理学において急死の原因を正確に診断することは重要な課題である.急死の原因としては心筋梗塞などの虚血性心疾患が多いとされているが,これらの早期虚血性心筋障害の剖検診断は極めて困難である. そこで我々は,長崎大学医学部法医学教室で剖検された内因または外因により死亡した63例について,心筋組織を通常のHE染色,PTAH染色で観察し,さらに障害時に心筋細胞内に発現すると考えられる細胞間接着因子Fibronectinと補体成分C9,逆に逸脱すると考えられる心筋特異タンパクTroponin Iに対する抗体を用い,各々免疫組織化学染色を行い観察した.その結果,これらのマーカーの染色像は症例によりいろいろな染色パターンを示した.このことは,心筋障害時におけるこれらのマーカーの動態を鋭敏に反映しているものと考える. 次に,我々は免疫組織化学的手法を用い74例の法医剖検によって得られた心臓において,左心室の組織切片から早期虚血性心筋障害を検出するために心筋細胞におけるcomplement component C9の発現様態を検討した.その結果,心筋細胞におけるC9陽性像は,早期虚血性心筋障害の剖検診断として信頼性が高く,かつ感受性の高いマーカーであると考えられた.さらに,1年以上の長期間ホルマリン固定されていた11例でも,C9の染色性にまったく影響が認められなかった.以上のことにより,我々が指標としたC9を用いた心臓の免疫染色は,法医実務において早期虚血性心筋障害を診断する際に,retrospectiveな分析を行うことができ,単純かつ有用な方法であると考える.
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