研究概要 |
慢性関節リウマチ(RA)では慢性増殖性滑膜炎により骨・軟骨破壊が起こり,高度の関節線形をきたす。RA滑膜炎局所で産生される炎症性サイトカイン,PGや蛋白分解酵素は破骨細胞の誘導,活性化や骨,軟骨基質の融解により骨破壊と関連すると考えられている。しかし,パンヌスと呼ばれる炎症性肉芽組織が骨組織を破壊していくメカニズムについては明らかではない。滑膜マクロファージをvitamin D3,MCSF存在下で,骨芽細胞株とco-cultureすることにより破骨細胞様細胞がin vitroで形成されることは滑膜細胞が破骨細胞に分化する可能性を示唆している。そこで支持細胞やサイトカイン,ホルモンなどの誘導因子非存在下で滑膜細胞が破骨細胞に分化するin vitroの培養系は未だ報告されておらず,また,破骨細様細胞の起源,形成過程やRAの骨破壊における役割についても不明である。 RA滑膜組織を誘導因子,支持細胞非存在下で特殊な表面加工した培養ウェルで培養すると培養10-14日後より線維芽細胞層がはがれ,多核巨細胞の集団が出現してくる。この培養系には多核巨細胞に加え滑膜細胞,マクロファージやCD4^+Tリンパ球が混在し,RAにみられるパンヌスに類似しており,RA滑膜組織ではこのような巨細胞形成が長期持続する。巨細胞はtartrate resistant acid phosphatase(TRAP)活性を持ち,vacuclar H^+-ATP aseが発現していた。Vitronectin receptorは発現していたが,[^<125>I]-calcitonin結合は非常に弱かった。電顕による検討では破骨細胞の微細構造と類似していた。また,アクチンフィラメントの特異的な分布から極性化していると考えられた。象牙片上で培養すると,多数の吸収窩が形成されたが,吸収窩は深く集合する傾向がみられた。このことから,本培養系では,滑膜細胞が増殖,融合,極性化し骨吸収をきたす過程がみられ,RAの炎症性滑膜組織において滑膜細胞が破骨細胞に分化し,骨を破壊してゆく可能性が示唆された。 さらに活動性の異なるRAと変形性関節症(OA)の滑膜組織からその破骨細胞様細胞の形成を比較したところ,OA組織培養でも破骨細胞様細胞の形成がみられたが,その形成スピードはRAに比較しておそかった。また,活動性RA滑膜組織では非活動性RAに比較して,より多数の破骨細胞様細胞の形成が速やかにみられた。一方,RA治療薬の有効性を検討したところ,NSAID添加では破骨細胞抑制は全くみられなかったが,デキサメタゾンやメトトレキサートでは抑制がみられた。これらの結果は,これらの薬剤の臨床的有効性と一致するものであり,このin vitro骨破壊モデルがRA治療や骨破壊抑制薬のスクリーニングに有用であることを示唆する。
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