研究概要 |
PR-39はブタの小腸粘膜および白血球から精製されたprolineに富む内因牲の抗菌ぺプチドである.我々は,このPR-39がproteoglycan型接着分子であるsyndecanの発現を誘導するとともに,肝癌細胞の固有運動能を低下させ,細胞形態とactin構造に変化を起こすことを明らかにした.また,近年,PR-39が白血球のp47phoxのSH3 domainに結合しNADPH oxidaseの活性を抑えるという報告やPR-39がSH3 domainを有するシグナル伝達分子であるp130Casに結合するという報告が出された.そこで我々は,PR-39のシグナル伝達における機能を明らかとするために,最もよくシグナル伝達系が解明されているrasの系を用いてその増殖能に及ぼす影響と技能について検討した.ブタPR-39 cDNAをhuman acti-vated k-rasによりtransformしたNIH3T3細胞へ導入し,activated k-rasおよびPR-39蛋白をともに発現しているクロ―ンを得た.このPR-39 transfectantについてactin構築,in vitroでの細胞増殖能,in vivoでの腫瘍形成能,Elk-1を基質としたMAPkinase活性,cyclinD1の発現およびPR-39の結合蛋白について検討した.PR-39 transfectantではコントロ―ルのrast transformantに比べ,actin stressfiberが出現し,細胞増殖能および移植後2週での腫瘍形成能が低下していた.また,MAPkinase活性およびcyclinD1の発現が低下していた.Tagとして融合したhemagglutininに対する抗体を用いた共沈法により複数の蛋白がPR-39と結合していることが明らかとなった.PR-39の遺伝子導入はrasのシグナル伝達系に影響を及ぼし,その細胞増殖を抑制した.この機序としてPR-39のproline rich regionがシグナル伝達系のSH3 domainを有するある蛋白に結合し,シグナルをブロックすることが想定された.
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