研究概要 |
MAGE―1,―3やNY-ESO―1などの腫瘍退縮抗原がmRNAと蛋白レベルにおいて、肝細胞癌のみに発現し、非癌部肝細胞には発現しないことを明らかにした。次の過程として、わが国ではHLA-A2の比率が高いことより、HLA-A2拘束性があるMAGE―3とNY-ESO―1のペプチドを合成して、CTL assayをT2 Cellをターゲットとして試みたが、CTL活性を見いだせなかった。最近では特に前述のNY-ESO―1によるワクチン療法が注目され、血中にNY-ESO―1に対する抗体が認められる症例でCTL活性が見られるとの報告があり、肝細胞癌症例100名で血中抗体の出現を検討したが、2症例のみに抗体が検出されるのみであった。 以上のような成績では、肝細胞癌にがん退縮抗原がいかに発現しても、ワクチン療法の標的に成り得る可能性が低い。メラノーマでは誘導できるNY-ESO―1に対するCTL活性がどうして肝細胞癌では誘導できないかが問題になる。そこで、肝細胞癌におけるAntigen―processing and -presenting moleculeの発現を検討した。その結果、肝細胞癌ではLMP-2,―7,TAP,Heat shock protein,β2―microglobulinは高率に発現されているが、HLA class―1の発現が軽度に、またCo―stimulatory moleculeのB7-1とB7-2の発現が高率に消失していることが明らかになった。欧米での成績が示すように、B7 moleculeの消失はImmune escapeの原因となる。肝細胞癌におけるImmune escapeもB7 moleculeの消失による可能性が大きいことが明らかになり、今後標的細胞としての肝細胞癌やAntigen―presenting cellとしての樹状細胞にB7 moleculeを遺伝子導入し、CTL活性が誘導出来るか否かを検討する予定である。また、SEREX法により肝細胞癌患者が特異的に抗体を産生する4分子を同定した。さらに、わが国では最初に岡山大学で発見されたCancer-testis antigenのOY-TES―1の肝細胞癌における発現と、肝細胞癌患者血清中での抗体の存在を検討した。20%の症例に抗体の産生が認められることより、今後、OY-TES―1ペプチドを用いたワクチン療法が可能か否かも検討予定である。
|