研究概要 |
種々の消化器疾患において、好中球が腸管上皮細胞と接着して傷害作用をおよぼすことが知られている。我々は、ヒト腸管上皮細胞株HT29をヒスタミンやTNF-αで刺激すると、ヒト好中球との接着が更新することを既に見出している。本研究では、この腸管上皮細胞と好中球と接着に関与する接着分子について解析を行い、以下のことを明らかにした。 1)ヒスタミンあるいはTNF-αで刺激したHT29細胞と好中球の接着の亢進は、抗CD11b抗体と抗CD18抗体で抑制されたが、抗CD11a抗体で影響されなかったことから、好中球側の接着分子としてはLFA-1(CD11a/CD18)ではなく、Mac-1(CD11b/CD18)が関与すると考えられた。 2)腸管上皮細胞と好中球との接着は抗ICAM-1(CD54)抗体で抑制されず、また、腸管上皮細胞のICAM-1の発現量をFACSで調べたところ、TNF-αやヒスタミンで刺激しても発現量は変わらなかった。これらのことから、腸管上皮細胞のICAM-1は好中球との接着に関与していないと考えられた。 3)腸管上皮細胞を蛋白分解酵素のproteinase Kで処理すると好中球との接着が抑制されたが、タンパク質合成阻害剤のcycloheximideで処理しても影響されないことから、腸管上皮側の接着分子はタンパク質であるが、その発言はタンパク質合成が必要ないことが考えられた。 4)腸管上皮細胞を糖鎖切断酵素(endoglycosidase H, sialidase)や糖鎖合成阻害剤(tunicamysin)で処理しても好中球との接着が阻害されないことから、この接着に糖鎖は影響しないことが推測された。 5)腸管上皮細胞をphosphatidylinositol-specific phospholipase C、RGDペプチド、ヘパリナーゼの影響を調べたところ、いずれも好中球との接着に影響しないことがわかった。したがって、腸管上皮細胞の接着分子はGP1アンカー型接着分子ではなく、また、RGD配列を持った細胞外マトリックスタンパクや、ヘパリン様グルコサアミノグリカンを含む分子ではないかと考えられた。 6)腸管上皮細胞の表面を^<125>Iでラベルした後、TNF-αやヒスタミンで刺激し、cell lysateをSDS-PAGEで解析したところ、分子量の31,250,145,85,65kDaの膜表面タンパク質の発現が刺激に応じて増加することがわかった。したがって、これらの分子量の膜タンパク質の1つまたは複数が好中球とHT29との接着に関与する可能性餓死された。
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