研究概要 |
本研究は,DNA修復機構を抑制することでDNAを標的とする抗癌剤の抗腫瘍活性を増強し得るか否か。Woodらにより開発された無細胞DNA除去修復機構(Cell,53,97-106,1988)を応用することにより,DNA修復機構がDNAを標的とする抗癌剤に対する大腸癌細胞の感受性規定因子であるか否か。以上2点の検討を目的とした。 紫外線及び抗癌剤によるDNAの修飾の実験として,UV-photoproductsを導入するためSV40DNAに紫外線(peak wavelength;253.7mm)を照射した。修飾DNA試料をエタノール沈殿し,10mM Tris-HCL,1mM EDTAに溶解した。修飾DNAはアガロース電気泳動上で紫外線照射量依存的に異なる移動度を示した。 細胞抽出液の準備として対数増殖期にあるヒト大腸癌細胞(培養液1リットル程度)をWoodらの方法に従って抽出した。蛋白濃度は牛胎仔アルブミンを標準物質としてBCA kit(PIERCE社)で測定した。抽出蛋白の濃度は15-17mg/mlであり,15mg/mlに調整し-80℃で保存した。 無細胞DNA除去修復系の実験では,修復系は修飾SV40DNA,内部コントロールの無処理DNA(pBR322DNA),〔α32-P〕dCTPを含むdNTP,ATPとその再生系,細胞抽出液および適当な緩衝液からなり,DNA修復反応は30℃で遮光のもとで行いEDTAで反応を停止した。除蛋白した後DNAを精製しEcoRIでSV40DNAとpBR322をlinealizeし電気泳動し,紫外線照射したSV40DNAへの〔α329P〕dCTPの取り込みをautoradiographyで定量した。この結果,ヒト大腸癌細胞株由来の細胞抽出液用いたDNA除去修復系で,紫外線照射量依存的なアイソトープ活性が検出された。 以上より,ヒト大腸癌細胞はDNA除去修復活性を有することが示唆された。そして,ヒト大腸癌細胞が薬剤-DNA付加体を修復することにより,抗癌剤の抗腫瘍活性から逃れている可能性があり,DNA修復機構の阻害が癌細胞の抗癌剤に対する感受性増強をもたらすことが示唆された。
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