本研究は、肺細胞と肺サーファクタントとの相互作用およびその機序解明を、in vitroおよび動物実験モデル(in vivo)で検討し、難治性呼吸器疾患への治療を含めた臨床応用への可能性を検討する。 平成10年度では、肺サーファクタントとして、人エサーファクタント(S-TA、東京田辺)の他にラット肺より分離精製した天然サーファクタントおよびリン脂質やサーファクタント特異蛋白(SP-AやSP-D)などの関連成分を用い、肺傷害成立に関与する好中球のプロテアーゼ活性、オキシダント活性などに及ぼす影響を検討し、肺サーファクタントとその関連物質は、好中球のスーパーオキサイドおよびエラスターゼ産生能、粘着・遊走能を有意に抑制する結果を得た。また、アポトーシス関連ではFasやbcl-2発現なども抑制した。 平成11年度はこれらの結果を受けて、人工サーファクタントの肺傷害に対する影響を主として検討できた。ラット及びハムスターのブレオマイシン実験肺線維症を用いた検討で、人工サーファクタントは、肺胞に滲出する好中球の活性化を抑え、その結果、引き続いて起こる肺線維化が抑制されることを見いだし、研究業績に認められるような論文や学会で発表した。これは、人工サーファクタントが、好中球活性化ばかりでなく、肺線維芽細胞の増殖を直接抑制する結果であること、また、肺傷害からの修復に必要な肺胞II型上皮細胞の増殖には影響を与えないばかりか、むしろこの上皮細胞機能を活性化するとが明らかにされたことは特筆に値する。
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