研究概要 |
急性肺炎,肺化膿症,膿胸症例において,口腔内常在菌群の混入を避けうる経皮的肺穿刺吸引法や胸腔穿刺法により微生物学的検討を行い,口腔内常在菌であるStreptococcus milleri groupと嫌気性菌が高率に分離され,かつ両者の混合感染が高頻度に認められることを明らかにした。 マウス肺炎モデルを用いた病原発症機序の検討では,S.milleri groupと嫌気性菌の混合感染群はそれぞれの単独感染群に比べて有意に致死率は高く,肺内の生菌数は長く残存し,肺病理組織像は炎症所見が激しく,60%のマウスでは腫瘍形成も認められる結果となり,S.milleri groupと嫌気性菌の相乗効果が示唆された。 In vitroでの検討では,病巣から分離されたS.milleri group,いわゆる病原性株は常在菌叢から分離された株に比べ,ヒト好中球貪食能や貪食殺菌能を有意に抑制した。その病原性株と非病原性株の差は菌体の莢膜の有無に基づいており,S.milleri groupの莢膜を構成するムコ多糖類を精製分離し,それをヒト好中球と接触させてみるとその存在がヒト好中球の貪食殺菌能を抑制した。以上のことより,S.milleri groupの病原因子に莢膜の有無が大きく関わっていることが示唆された。一方,嫌気性菌では,その代謝産物がヒト好中球を抑制すること,およびその代謝産物がS.milleriの発育を増強することがわかり,その代謝産物は短鎖脂肪酸であることも明らかにされた。 臨床検査におけるS.milleri groupの分離同定法には若干の混乱があるが,それは分離培養に用いる血液寒天培地や同定キットに問題のあることを明らかにし,その対策を検討した。
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