研究概要 |
本研究着手の発端は、アストロサイトが生成する神経栄養因子およびサイトカインが株化ヒト神経細胞においてプリオン蛋白(PrP)遺伝子の量的発現を調節できるとの我々の発見であった(Satoh J,et al.,1998)。我々はアストロサイトによるこのPrP遺伝子の量的調節が神経細胞の機能や生存に何らかの影響を及ぼしえることを証明することが最初に解決すべき課題と考えた。我々は第一にPrP遺伝子ノックアウトマウスを用いて、種々の外的毒性因子から細鉋を保護する機能を持つ熱ショック蛋白の発現とPrPの関連性を検討した。しかし、43℃、20分間の熱ショックストレスは線維芽細胞の主要熱ショック蛋白遺伝子(HSP105,HSP72,HSP90α,HSP70,HSP60,HSP25)の発現量にPrP遺伝子ノックアウトマウスと対照マウス間で有意な差を認めなかった。この結果を得たために、我々は次にPrP遺伝子が細抱機能および生存維持に関連しているRas/Rac1シグナル伝達系遺伝子の発現に影響を及ぼしている可能性を検討した。PrP遺伝子ノックアウトマウスと対照マウスから線維芽細胞株を樹立して培養し、マウスcDNAexpression arrayをSouthern blot hybridization解析することによりgene expression profileを検討した。解析した597cDNA cloneのうち、ノックアウトマウスで細胞増殖、接着機能に重要な9遺伝子(RTK,Eps8,CD44など)のdown-regulationを認めた(佐藤準一他、第41回日本神経病理学会総会にて発表)。この成績は、PrPがRas/Rac1シグナル伝達系を介して細胞の生存維持に関連する機能を有していることを示唆しており、さらにPrPの量的発現に影響を及ぼす種々の因子を生成するアストロサイトがプリオン病に影響を及ぼしている可能性をも示唆している。
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