研究概要 |
αBクリスタリン(αB-C)は,哺乳類の眼の水晶体を構成する主要な蛋白質の一つであるが,脳にも分布している.抗αB-C抗体にて染色すると,正常脳では,オリゴデンドロサイト・アストロサイトが染色されるのに対し神経細胞は染色されてないが,病的状態にある神経細胞のあるものは染色されることがある.このαB-C陽性を示す神経細胞異常については,まだ十分検討されていないため,今回の研究を行った. 1)対象と方法:対象は,29種類の神経疾患患者73例と非神経疾患患者4例77剖検例である.各症例の脊髄切片および脊髄以外の病変部位の切片に対し,ルーチン染色および抗αB-C抗体を一次抗体としたABC法にてそれぞれ染色した. 2)結果:高率にαB-C陽性を示した神経細胞は,ピック病・corticobasal degeneration(CBD)のballooned neuron(BN), 皮質型レビー小体,下オリーブの仮性肥大神経細胞であった.時に陽性を示した神経細胞は,一部の脳梗塞巣の周囲にみられた.稀に陽性の神経細胞がみられたのは,脊髄前角では,筋萎縮性側索硬化症,進行性核上性麻痺,Machado-Joseph病,封入体筋炎,多発性硬化症,癌性髄膜炎の各症例であり,脊髄後角では筋萎縮性側索硬化症,進行性核上性麻痺,肝性脊髄症,封入体筋炎,クリプトコッカス髄膜炎の各症例,橋核では多系統萎縮症,CBD例にそれぞれ認められたが,疾患や病変分布による一定した染色性はみられなかった.αB-C陰性を示したのは,ピック小体,アルツハイマー型神経原線維変化,脳幹型レビー小型,central chromatolysisを呈した神経細胞であった. 3)考察・結語:αB-C陽性の神経細胞はかなり選択的であり,BN・皮質型レビー小体の検出,BNとcentral chromatolytic neuronとの鑑別,BNとピック小体との識別に有用であった.他の状態における神経細胞でも異常染色性を示すことが分かったが,それがどのような意義を有するかについては,今後,さらに検討する必要がある.
|