研究概要 |
心不全の進展を助長する要因として,交感神経系やレニン―アンジオテンシン系の賦活が指摘されている。我々は,ラット心筋梗塞による心不全モデルにおいて,心筋ノルエピネフリン低下やノルエピネフリンのアナログであるMetaiodobenzylguanidine(MIBG)の心集積低下で示唆される心臓交感神経活動の亢進が,心不全の進展と密接に関連していることを明らかにした(Am J Physiol 2000,in press)。 腎臓における交感神経活動亢進も心不全の進展に関与している可能性がある。実際,腎交感神経の除神経により心房利尿ホルモンの応答性や尿量の増加が報告されている。しかし,心不全における長期間の除神経が心不全治療に有効かどうか明らかではない。我々は,ラットの心筋梗塞作製直前に両側の腎交感神経を外科的およびフェノール塗布により除神経し,これらが心機能およびナトリウム排泄能に及ぼす影響を検討した。この方法による除神経では,慢性期(4週後)においても腎ノルエピネフリン含量は枯渇しており,慢性的な腎除神経が確認された。心筋梗塞を作成しなかったshamラットでは,除神経しても心機能,尿中ナトリウム排泄には影響しなかった。しかし,心筋梗塞ラットでは除神経により尿中ナトリウム排泄が増加し,左室拡張末期圧の低下と左室収縮および拡張能が改善し,心筋梗塞後の左室拡大を有意に抑制した(Circulation 1998;98:I-553)。本研究により,慢性心不全において腎交感神経活動の亢進も心不全の進展に関与し,除神経はナトリウム排泄を介して心不全の進展を抑制した。 以上の結果から,心筋梗塞後の心室再構築を伴う心不全の進展には心臓のみならず腎臓における交感神経活動の亢進が関与することが明らかとなった。それ故,亢進した全身の交感神経活動を長期間抑制することにより,心不全のさらなる進展を抑制できる可能性が示唆された。
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