研究概要 |
人、特に小児の中間胸部誘導心電図、V2-V4(V1-V5)、のSTjunction寄りのSTsegmentは生理的に0.1-0.4mV上昇する事が知られているが、その機序は明らかでない。そこでその機序を明らかにする為以下の観察、実験をおこなった。 1.人(川崎病、肺動脈弁狭窄,心房中隔欠損,心室中隔欠損Tetralogy of Fallot等170例)でのST最大上昇を示す前胸部誘導部位と心血管造影像,心超音波画像で見る心室中隔の水平面での回転の角度の特徴がほぼ一致する。 2.心室節のAction potentialの一般形とSodi-Pallares等による心室中隔より両心室全体への興奮伝播過程から作図したSTsegment時間帯電位勾配の変化の進行から、STsegmentで中隔の前方自由壁付着部位からみた電位勾配はST上昇に一致する。なぜなら前方付着部位からみると中隔はその前後径厚にそって前下方より後上方に向かって順次興奮するからである.一方V3RやV6等は寧ろ直交する誘導なのでベクトル成分として現れない. 3.動物実験(成犬、ビーグル,6匹)で開胸後、心表面電位地図をつくると、左冠動脈前下降枝領域に沿ってST上昇が最も強く、心室中隔をその前方付着部位から縦方向に後方を眺めた時の電位勾配に一致する.即ち、2.に述べた仮説が成立する. 4.先天性心疾患の手術開胸時に同様の事を16名について観察記録した.人においても犬の場合と同様、心表面前方の電位図を記録作成すると、ST上昇は左前下降枝領域にそって最も強く、その両側に向かって減弱した。 以上の事から前胸部誘導心電図の非特異的ST上昇は心室中隔興奮過程をその前方付着部位から真うしろ後方に縦方向に進行するのを記録する為であるとおもわれる。 4については最近のMICS(minimally invasive cardiac surgery)導入に伴う最小皮膚切開創による心表面電極シーツの改良対応、それらに伴う適応対象患者の減少等により大幅に遅れた事を深謝する。
|