研究概要 |
日本人Wilson病症例40例に対して,ATP7B遺伝子の構造解析を行った.日本人症例における異の型と頻度は,欧米人症例と明らかに異なっていた.R778L変異(exon8),A874V変異(exon11)および2871delC(exon13)変異が高い頻度にて認められ,これらで全体のアリルの50%以上を占めていた.R778L変異をhomozygousに有する発症後症例は全例神経型症例であり,この変異は神経型に特徴的な変異である可能性が示唆された.また,この変異を有する症例は,血清セルロプラスミン値が低値であり,銅特異的ATPase活性も低い値を示した.この変異部位は,ATP7B蛋白において4番目の膜透過部位に含まれる.4番目の膜透過部位あるいは778番目のアミノ酸は,ATP7B蛋白の機能において重要な部位であり,この変異はその構造あるいは機能を著しく障害する変異である可能性が示唆された.さらに,2871delC変異をhomozygousに有する症例の臨床経過より,この変異は重篤な肝障害をもたらす変異であることが推察された. 古典型Menkes病症例2例に対し,原因遺伝子ATP7A遺伝子の構造解析を行った結果,1例はエクソン・スキッピングである2317+5 g to c 変異(intron9)であり,もう1例は1塩基挿入2491insA変異(exon10)であった.特に2491insA変異は今まで報告のない変異であり,また患児の母親に対する解析の結果,突然変異にて生じた新しい変異であることが確認された. 古典型Menkes病症例,その母親(保因者)およびWilson病症例の培養リンパ球に対し銅特異的ATPaseの活性測定を行った.本法によりATP7Aあるいは7B蛋白の機能を解析することが可能であると考えられた.また,リンパ球における銅代謝にはATP7A蛋白がより強く機能していると推察された.
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