研究概要 |
ジストロフィンの臨床応用が危ないことを警告してきた.最近,筋ジストロフィー症(MD)研究の行方が再び混沌としてきたとの思いが広がっている.私は,この混乱の原因は,誰も疑わなかった筋変性説が間違っているためだろうと主張し,筋変性説に代わって,筋成長障害説(一歩進めた筋-骨不均衡説)を提唱してきた. 種々の病理研究を行い,例えば,顕著な筋病変像である中心核は代償性の成長指向性善玉病変であろう,筋核が機械-化学変換器として働いているのではないか,また,MD筋病変は普通の筋損傷による病変と同じで.修復過程には多核の筋線維中の筋核が筋芽細胞(単核の細胞)に先祖返りして生き残るのであろうと提唱した.筋成長に関わる各種成長因子の解析も行った.骨格筋と心筋の比較組織学的研究結果を基に,骨格筋は長さで,心筋は分枝/折畳みで稼ぐという作業仮説も提唱した. MDの発症が圧倒的に男性に多いのは,DMDがX染色体性劣性遺伝するためとされるが,私は,成長特性の男女差による可能性を推定した.筋-骨不均衡説との関連から,特に相対身長成長に注目し,健常男女の成長(資料:厚生省国民栄養調査と文部省学校保健統計調査)を分析し,いくつかの興味深い男女差を観た.例えば,健常女子の顕著な成長特性として,身長を体重の立方根で割った値(以下,F値)が11歳過ぎから急速に減少し,15歳頃以降低い値で落ち着くこと,15歳頃以降のF値が6〜7歳頃の値に近い程小さいこと,身長と体重の個人差の山が女子では10歳頃で一致したのに,男子では身長の変化が大きく遅れること,8〜11歳頃にかけて肥満傾向が男子で好発すること,12〜15歳頃にかけて女子で脊柱側湾が好発することを見出し,成長機構との関連性を考察した.成長関連肥満と脊柱側湾は成長すれば自然に治ることから,病的なものとの鑑別が重要である.
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