研究概要 |
脳血流製剤として用いられているTc-99m-HMPAO,Tc-99m-ECDなどの蓄積型トレーサーは,ゴールデンスタンダード法とされているXe-133ガス吸入法による脳血流測定値と比べ,軽度な血流低下を検出しにくい傾向がある.この原因は,グルタチオンやエステラーゼなどトレーサーを脂溶性から水溶性に転換する物質の活性の耐虚血性に起因すると考えている.すなわち,停滞型トレーサーの脳内分布は脳血流のみならず停滞機序を担うグルタチオンやエステラーゼなどの活性に大きく依存すると推測した.この推測を支持するために,虚血による血流低下域とアルツハイマー病による血流低下域の各トレーサーによる差異について検討した.その結果,血行動態に起因する虚血部位ではTc-99m-HMPAO,Tc-99m-ECDともにXe-133法での75%程度までの軽度な血流低下は検出できなかった.しかし,アルツハイマー病による血流低下域は,TO-99m-HMPAOでは虚血部同様,検出困難であったが,Tc-99m-ECDではXe-133法の血流低下率とほぼ同様の集積低下率となり,両トレーサー間に乖離が認められた.この乖離は,アルツハイマー病ではECDの停滞機序であるエステラーゼの活性低下が先行するなどの停滞機序の病態依存性に起因すると考えられた. 結語:脳血流製剤とされているTc-99m-HMPAO,Tc-99m-ECDなどの蓄積型トレーサーの脳内分布は,脳血流のみならず,それぞれの停滞にかかわるグルタチオンやエステラーゼなどの活性低下にも大きく左右される.そして,これらの活性低下は虚血やアルツハイマー病などの病態にも依存することが分かった.したがって,停滞型のTC-99m-HMPAO,Tc-99m-ECDなどのトレーサーを脳血流の定量測定に用いる場合にはこれらの点に留意すべきである.
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