研究概要 |
【目的】虚血性心疾患の治療方針の決定には冠動脈造影が必要であるが,これには合併症の危険とともに患者の苦痛ならびに検査に要する時間は少なくない。そこで,シンクロトロンからの放射光を用いて造影剤の静脈注入による冠動脈造影(経静脈冠動脈造影)が開発されている。放射光から得られる単色X線は造影剤に対し高い検出能を有するため,経静脈冠動脈造影が可能となる。我々は1996年に臨床応用に成功したが,改良を重ねながら施行例数を増やし,本造影法の有用性について検討した。 【方法】本造影に同意された筑波大学附属病院の外来ならびに入院患者を対象に,つくば市にある高エネルギー研究所(KEK)内の診療所で造影を行った。造影剤注入用の外径2mmのシースを頚静脈に挿入し,患者を撮影用椅子に座らせた。撮影は,造影剤35-40mlを静注した後,放射光をシリコン結晶で分光した130mm×75mmの面状単色X線(エネルギー37keV)を照射して行った。1回の撮影時間は約7秒で,これを3〜4回行った。総被曝線量は現行の選択的冠動脈造影より少ない量とした。画像は,透過X線をImage Intensifierで可視化し,テレビカメラで画像信号化してデジタルレコーダーに記録した。 【結果】1996年に4例に実施し,全員の冠動脈を描出することができたが,2001年3月までに33例に実施した。その結果,右冠動脈ならびに左冠動脈前下行枝の主要部位は全例で描出できた。左冠動脈回旋枝は,近位部はほぼ全例で描出できたが,遠位部は左室と重なり描出できたのは約半数であった。検査の合併症は2例で造影剤による痒みが出現した。検査後の無記名の患者アンケート調査では,全員が「ほとんど苦痛がない」と回答し,さらに,ほとんどの患者から「冠動脈造影が再度必要になった場合には本造影検査を希望する」との回答を得た。本造影に対する患者の受け入れは良好であった。経静脈冠動脈造影から冠動脈近位部の形態評価が可能であり,本検査の有用性が確認された。 【考察・意義】放射光を用いた経静脈冠動脈造影は,簡便で侵襲の少ない有効な診断法であることが確認された。現時点では,IVCAGの鮮明度は選択的冠動脈造影に比べやや劣るが,冠動脈病変のスクリーニングや罹患部位が判明している病変に対するfollow-upには有効である。今後の課題として,造影像の鮮明度を増すために,放射光の強度を上げること,より高分解能でダイナミックレンジの大きい高性能の検出器を用いることが望まれる。また,横幅を130mmに拡大して,1回の撮影で右冠動脈と左冠動脈を同時に撮影できれば照射回数を減らすことが可能であり,今後さらなる改善が期待できる。
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