研究概要 |
本研究では,まず,分裂病性思考障害に関して,Thought Disorder Index (TDI),Bonn Scale for the Assessment of Basic Symptom (BSABS)を用いて検討した.TDIによる客観的評価からは,「特異的言語表現」が分裂病性思考障害の特徴であり,分裂病性思考障害の介在性脆弱性指標と考えられた.BSABSによる主観的評価からは,分裂病に特異的な自覚的症状として,「思路の途絶」,「象徴理解の障害」などの思考障害の他に,要素心理学的に「言語」「記億」「注意」に関する13項目が抽出され,基底症状を反映していると考えられた.これらの分裂病性思考障害の特徴をとらえた成果に基づいて,寛解状態にある分裂病患者を対象として,TDIを用いた思考障害の評価,Wisconsin Card Sorting Test (WCST)を用いたワーキングメモリーの評価,Wechsler Memory Scale-Revised (WMS-R)を用いた記憶機能の評価,Wechsler Adult Intelligencd Scale-Revised (WAIS-R)を用いた知能の評価を行い,分裂病性思考障害と高次脳機能との関連について検討した.TDI得点とWCST達成カテゴリー数,保続エラー数との間には有意な相関が認められず,分裂病性思考障害はワーキングメモリーの障害のみで一元的に説明できないものと考えられた.WMS-R成績より,分裂病者において視覚性および言語性記憶機能の障害が存在することが認められた.TDI総得点とWAIS-R「類似」,「絵画配列」成績との間,およびWMS-R言語性記憶とWAIS-R「類似」,「絵画完成」,「絵画配列」との間に有意な相関を認め,分裂病性思考障害は,意味性,概念性,物語性などを統合化,組織化する能力,言語性の範疇化,抽象化能力の障害と関連があり,意味システムと関連する認知メカニズムを基盤として,分裂病性思考障害が出現するものと考えられた.これらの成果は,第10回東北神経心理懇話会,第53回東北精神神経学会総会,第22回日本生物学的精神医学会で報告し,その成果の一部が学術雑誌「精神医学」,「臨床神経心理」に掲載された.
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