研究概要 |
てんかん,脳虚血,脳損傷などの神経学的ストレスによって,脳のポリアミン代謝が活性化され,プトレッシン濃度が増加する。また最近,心理的ストレスに起因する情緒障害とポリアミンとの関連性が明らかにされつつある。これらの報告は,脳神経の機能変化,機能維持に対するポリアミンの重要性を示唆するものである。本研究では,ポリアミン代謝がストレス,特に心理的ストレスによって影響されるか否かを確かめるとともに,血中ポリアミンのストレス指標としての可能性について検討した。 マウスに拘束ストレスを負荷し,前頭皮質,海馬,視床下部および血しょう中のポリアミン濃度を定量した。さらに一部のマウスは拘束後,水温25℃の水に首まで浸した。拘束および浸水の時間は2時間で,断頭までの時間は5分から48時間であった。拘束ストレスの場合,プトレッシン濃度変化は前頭皮質のみで観察されたが,拘束浸水ストレスを負荷した場合,すべての脳部位で顕著に増加した。また拘束浸水ストレスでは,スペルミン濃度が前頭皮質および視床下部でわずかに減少した。これらの変化は,ストレス解放から6〜24時間後に観察され,48時間後までにコントロールレベルに回復した。さらにポリアミンの濃度変化は,シアゼパムの前処理によって抑制された。ストレス負荷による血しょう中のポリアミンの変化は,全く見られなかった。 以上より,ストレスによって脳内ポリアミン代謝が活性化され,この活性化はストレスの強度と密接に関連していることが明らかになった。また,血しょう中のポリアミン濃度がストレス指標にならないことが示された。ストレス状況下におけるポリアミンの役割については興味ある問題であるが現時点では明らかではない。更なる研究の継続が必要であろう。
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