研究概要 |
1)一酸化窒素の測定法について まず基本的な問題として,NO測定に頻用されるGriess反応によるNOx(NO_2+NO_3)測定と,電極法によるNOが真のNOを反映しない可能性を見出した.すなわちアルギニンのアナログであるカナバニンや,NO合成酵素の阻害剤であるL-NAMEと過酸化水素の反応でNOxは検出されるが,化学発光法でみるとNOの存在は確認できず,NO_2あるいはNO_3が産生される可能性がある.また,電極法ではNOのみならず,過酸化水素やO_2も反応してしまうという欠陥が明らかになった. 2)実験腎症における単離糸球体での一酸化窒素産生について puromycin aminonucleoside(PAN)投与によって腎症を誘発したラットでは,投与2日目の尿中および血清中のNOxは増加しており,体内のNO産生は増加していると考えられるが,その時期にNO合成酵素を免疫染色しても,増加が見られず,PANによる活性酸素産生増加に引き続く現象である可能性が高いと考えられた.PAN投与後同時期の単離糸球体でもNOxの産生亢進が確認され,尿中のNOx増加は,糸球体由来と考えられた. 3)透析患者での一酸化窒素産生における非酵素的反応の関与について われわれは透析患者の血中NOxが増加していることをすでに報告した.腎不全患者では血清中のNO合成酵素阻害物質の増加や活性酸素産生の増加が知られている.そこで,われわれの見出した過酸化水素による非酵素的NO産生に注目し,この系に対する透析患者血清の抑制効果を調べた.その結果,透析患者血清は非酵素的NO産生に対する抑制が弱く,これがNO産生増加に関与している可能性が考えられた. 4)in vivoでの腎臓における還元能の電子スピン共鳴法による評価法について 電子スピン共鳴法により,従来から困難とされてきた実験腎炎における生体内のredox stateのin vivo評価を試みた.PANでラットに腎症を誘発し,ラジカルプローブ剤である4-hydroxy2,2,6,6-tetramethyl-piperidine-1-oxyl(TEMPOL)を投与し,腎臓表面からシグナルを捕らえ半減期を算出した.その結果,腎臓内で活性酸素の産生亢進により還元物質が消費される時期に一致し,著明にTEMPOLの半減期の延長を認めた.この事実はPAN腎症での還元能の低下をin vivoで証明するとともに,in vivoでのフリーラジカルイメージングの基礎を開くものである. 5)内皮型一酸化窒素合成酵素多型と末期腎不全への進行について 内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子には,いくつかの多型が知られている.そのうちintron4の27塩基対の5 repeatが4 repeatになるmutationについて調べ,透析患者群で有意にこのmutationが高頻度であることを明らかにした.しかし元疾患別に検討すると,糖尿病性腎症による透析患者群では健常コントロールと差がみられなかった.この結果はこの遺伝子異常が糖尿病によらない腎疾患の進行因子になっている可能性を示唆する.しかし,このmutationのeNOS活性に及ぼす影響に関しては,現在相反する報告が出ており,われわれも現在検討を進めている.
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