研究概要 |
マウスβ細胞cell lineにヒトFas cDNAを導入してヒトFasを安定的に発現するβ細胞クローンを確立した。このhFas/βTC1クローン細胞はFas抗体によりクロマチン濃縮,核断片化,DNA切断,Annexin V染色などアポトーシスに特徴的な所見を呈した。Fas抗体のFasへの結合によりcaspase3活性が上昇したが,caspase 1活性化は認められなかった。Fasによるアポトーシス誘導はcaspase 3阻害剤によって抑制された。さらにアンチセンスcaspase 3はFas抗体によるcaspase 3活性化とアポトーシス誘導を抑制する作用を示した。これらの成績はcaspase 3がFasを介するβ細胞アポトーシス誘導に必須な役割を有することを示している。また,hFas/βTC1細胞のFasを介するアポトーシスが,オレイン酸を添加することによって増強されたことから,ケトアシドーシスに伴う高FFA血症がFasを介するアポトーシスを促進する可能性が考えられた。次に,NODマウスのシクロフォスファミド誘発糖尿病に対するcaspase阻害剤のin vitroでの効果を検討した。糖尿病未発症の雌性NODマウス30匹にシクロフォスファミドを注射し,15匹にはz-VAD-fmk 0.2mg/日,残り15匹は対照群として溶媒のみを投与したところ,3週間後までに対照群の8匹,処置群の5匹が糖尿病を発症した。この間に対照群の発症マウスのうち3匹が死亡したが,処置群では死亡したマウスはなかった。処置群の9匹では組織学的に膵島炎が軽度に止まっていたが,対照群では3匹のみが軽度であった。したがって,caspase阻害剤は自己免疫性膵島炎の進行を部分的に抑制する可能性がある。
|