研究概要 |
高アポBリポタンパク血症は動脈硬化の危険因子である。我々は肝でのVLDL分泌の制御に着目して研究を行っており、この研究ではVLDLの形成・分泌過程におけるアポB糖鎖修飾の役割の解明をめざす。アポBは4563アミノ酸の巨大なポリペプチドであり、ヒトアポB100には16カ所、そのN末48%に相当するアポB48には5カ所にN-型糖鎖が結合しているが、その機能は未だ明らかではない。ラット肝細胞をtunicamycin(TM)処理し糖鎖修飾を阻害すると、アポB100の合成は著しく阻害されることを見出した。アポB48の合成の低下はわずかであったが、分泌は著しく低下した。重要な役割を持つ糖鎖結合部位を予測するために、C末端欠失ヒトアポB(B17,B29,B34,B42,B48)を発現するMcARH7777細胞を用いてTMの影響を解析したところ、アポB17以下全てのアポBの分泌効率が低下した。アポB17に唯一存在する糖鎖結合部位(Asn158、N2)にQ-to-N置換を行うと変異アポB17の分泌効率はTM処理同様に低下したが、脂質結合領域β1ドメインを持つアポB37、B48の場合には他の糖鎖(4ヶ所)の重要性が示唆された。そこで5ヶ所全てに変異を導入したアポB50N2-7を作成して脂質との会合過程での糖鎖修飾の役割を解明した。B50N2-7は野生型に比較して分泌効率が40%低下し、主にHDL密度粒子として分泌されVLDLとしての分泌はほぼ完全に抑制された。ラット肝細胞をTM処理した場合もVLDL密度のアポB48分泌が特に著しく低下していた。細胞内では、小胞体膜から内腔へのアポBの転移が低下し、内腔へのVLDL-アポB48出現が低下していた。したがって、アポBの糖鎖修飾はVLDL形成・分泌に重要な役割を持つことが明らかになった。
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