研究概要 |
外科侵襲後には肺機能障害がない症例においても低酸素血症を認める.リン(Pi)は細胞内エネルギー産生および組織への酸素運搬に関与する.術後の低酸素血症がおきるような状況下で,1)Pi代謝がどのように変化するか,また,2)Pi代謝を司る副甲状腺ホルモン(PTH)に対する反応性がどのように変化するか,動物実験で検討した. 本研究で明らかにした点は,1)外科侵襲後の尿中Pi排泄を規定するのは筋蛋白の崩壊の程度である.尿中Pi排泄に対してPTHの関与は少なく,尿中ナトリウム排泄とは独立している.つまり,外科手術侵襲が大きいほど,尿中Pi排泄は増える.また,血中Pi濃度は低下する. 2)外科侵襲によりPTHのPi利尿作用は低下する. 3)これはPTH分泌量が変化するためでなく,PTHに対する腎応答が低下するためである. 以上の結果の解釈はつぎの通りである:外科侵襲下のエネルギー需要が増大する時期▽外科侵襲による低酸素環境というエネルギー産生に不利な状況▽にPi排泄は増加する.これに対して生体は,PTH本来の機能であるPi利尿作用を抑制することにより体内にPiを貯留させる.この現象の意義については,「PTH機能の抑制により体内貯留したPiが外科侵襲をのりきるためのエネルギー産生に使われる」と,われわれは推測する.
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