研究概要 |
先に外傷性DICの発生病理を実験的に検討するために,ラットに出血性侵襲を与え,凝固線溶系,血漿サイトカイン濃度および組織病理学的変化からDICの発症を確認したが,その際組織NO産生の早期よりの増加を認め,外傷性DICの早期診断の指標としての可能性が示唆された.そこで出血性侵襲時の組織NO産生の経過および産生機序をその組織病理と共に,DICの動物モデルであるエンドトキシン適用ラットと比較しながら検討した. 平成10年度においては,出血性侵襲(推定全血量の30%の放血)後の組織NO産生の経時的変化を腎組織に設置したNO選択性電極(φ200μm,インターメディカル社製)により記録し,エンドトキシン(LPS,E.coli,10mg/kg iv)適応群と比較検討した.出血性侵襲においては,早期にNO産生の増加がみられ,これは構成的NO合成酵素(constitutive NOsynthase:cNOS)に由来するものであることがNOS阻害剤による検討から確認された.これに対しエンドトキシン適用においては,初期にNO産生は全く認められず,2-3hr後より緩徐な産生の増加が認められ4-6hr後にピークに達し,これは主として誘導型NO合成酵素(inductble NO synthase:iNOS)に由来するものであることが確認された.これら組織NO産生は組織試料(腎組織)のESRによる検討からも確認された. 平成11年度においては,上記病態に対する各種治療薬の効果を検討した.各種ショック状態に対するNOS阻害剤による治療が検討されている.NOS阻害剤は上記侵襲による凝固線溶系およびサイトカイン濃度の変化を一部有意に軽減したが,組織病理学的変化には改善効果はみられなかった.DICの治療薬であるAntithrombin IIIは凝固溶系およびサイトカイン濃度の変化,更に組織病理学的変化をも有意に改善した.かかる病態に対するNOS阻害剤の治療適用については,NO作用の二面的役割に鑑み,NOS阻害剤の種類,用量,適用時期等について更に詳細な検討が必要であると考える.
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