研究概要 |
種々の小腸粘膜障害や小腸大量切除後の小腸機能の回復には,小腸粘膜の再生増殖が必要である。この再生増殖には粘膜上皮細胞内において前初期遺伝子群である核内転写因子c-fos, c-junの活性化が関与している。本研究では,種々の病態下における小腸粘膜の再生増殖機序を解明する目的でc-fos, c-jun遺伝子の発現に着目し,ラットを用いて検討した。絶食による小腸粘膜の萎縮から摂食によって起こる再生増殖の過程における加齢の影響を検討した結果,幼少ラツトでは摂食後早期にc-fos, c-junのmRNAが発現増強し増殖活性が増強するのに対し,成熟ラットではこれらの反応は弱く増殖能が低下していることを示された。小腸阻血再灌流障害モデルでは,再灌流後早期からc-fos, c-jun mRNAの発現増強がみられ,続いて増殖活性の増加がみられた。興味深いことはc-Fos, c-Jun蛋白の発現部位がアポトーシス細胞の部位と一致していたことで,c-fos, c-junの発現は再生増殖のみならずアポトーシス誘導にも関与している可能性がある。小腸大量切除後に起こる小腸粘膜の代償性増殖の過程においても,大量切除後早期からc-fos, c-jun mRNAが発現増強し,次いで増殖活性も増加していた。以上の結果から,いずれの病態下においても小腸粘膜の再生増殖にはc-fos, c-jun遺伝子の発現が重要な役割を演じていることが明らかとなった。現在,c-fos, c-jun遺伝子の発現と関連して細胞内シグナル伝達系のついて阻血再灌流モデルで解析中である。
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