研究概要 |
癌切除施行肝細胞(肝癌)症例の多中心性発癌を病理診断法,すなわち(1)一方の肝癌が高分化型肝癌組織のみから構成される場合,(2)いずれの肝癌においても中にあるいは低分化肝癌組織の周囲に高分化型肝癌組織がみられる場合との定義にしたがって検索し,そのリスク因子と臨床的意義について検討した.その結果,輸血歴を有する症例,高ICG15分値,ALT高値,高ビリルビン血症,さらにHCV感染およびHBV感染既往あるいはHCV単独感染が有意な因子であった.また非癌部肝組織の肝炎活動性や線維化の程度が高くなるほど多中心性発癌のリスクは増大した.さらに女性においてはX染色体上のVariable Number of Tandem Repeat領域を有するAndrogen Receptor Geneのメチル化パターンより多中心性発癌巣か転移巣かの鑑別が可能であることが示唆された. またそれらの肝切除後成績は多中心性発癌症例と単発例に有意差はみられなかったが、肝内転移症例の術後成績は多中心性発癌症例に比較し、有意に低値であった.したがって多発肝癌症例においてそれらが多中心性発癌か,肝内転移かを鑑別することは臨床的に意義あるものと考えられた.さらに肝切除後の多中心性発癌のリスク因子は低血小板数などであった.これらより多中心性発癌のリスクから発癌ポテンシャルを類推し,それらを踏まえた肝癌に対する治療法や術式の選択が重要であると考えられた.
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