研究概要 |
実質臓器保存においては保存中のATPレベルが再潅流障害に極めて重要であるが、肺胞腔に空気を含んでいる肺については報告により矛盾がある。今回我々は、肺保存と糖及び肺胞状態の関係について分析した。グルコース、トレハロース、スクロース、マルトース、もしくはラフィノースを保存液に加え、保存後のエネルギー変化、再潅流後の肺機能を調べた。その結果、保存後の肺のATP,ADP,AMPは保存前と変化なく、糖による差もないこと、しかし、再潅流障害はトレハロースが他の糖と比較して優れており、糖の肺保存における役割はエネルギー源のみでなく細胞保護作用があることを証明した。 また、冷保存中の肺の血管内皮細胞のミトコンドリアの形態学的変化と再潅流障害の関係を調べ、ミトコンドリアの障害と再潅流後の肺酸素化能との間に有意な相関が認められることを証明した。また、肺保存における肺内ATPの時間的変化(6、9、12時間)と再潅流後のATPレベルの回復と肺機能の関係を調べた結果、保存時間が長くなるにつれ、再潅流後の肺のガス交換能が低下し、シャント率は再潅流後の肺内のATPレベルの回復と逆相関することを証明した。 さらに、肺をdeflate,anerobicな状態などで保存し,嫌気性代謝との関連、ミトコンドリアの機能と再潅流障害の状態を調べた。その結果、冷肺保存においては好気性のinflate状態がdeflateや嫌気性の状態より保存後肺機能が良い。冷保存中でも嫌気的な状態では解糖は行われるがエネルギー維持には不十分であり、冷肺保存にはinflateと酸素は極めて重要であることがわかった。
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