研究概要 |
肺癌における分化誘導の研究は,肺癌発生の機構の解明のみならず,新たな機序に基づく抗癌剤の開発の可能性を秘めていると考えられる.そのため,癌の分化を誘導することは癌治療における大きな課題である.そこで,我々はこのような分化誘導因子をみつけるために,分化を誘導する機能性モノクローナル抗体を作製し,その遺伝子をクローニングしてきた.その結果,我々が得た抗体KM43-2は肺小細胞癌株SBC-1の形態変化をもたらし,またその細胞運動能も抑制することが認められた.そしてこの抗体が認識するepitopeを調べたところ,分子量60Kと71Kの膜蛋白を認識していた.更にこの蛋白を認識している遺伝子のクローニングを行ったところ,目的遺伝子の一蔀と考えられている560個の塩基配列からなるcDNAがクローニングでき,我々はこれをdifferentiation inducing protein(DIP)と名付けた.しかし,現在のところ分子量と塩基配列数にかなりの相違がみられ,また,このcDNAの断片を細胞にトランスフェクションしても,機能及び形態に大きな変化はもたらされなかった.これは全cDNAがクローニングできていないことによると考えられる.そこで、遺伝子クローニングからのみ塩基配列を同定するのではなく,抗体アフィニティーカラムを用いることにより,蛋白配列から全構造を同定する手段も試みたが,未だ成功してはいない.また他の原因としては,糖鎖による修飾も考えられ,蛋白部分の機能をみていたのではなく,糖鎖の機能をみていた可能性も示唆される.これらのことを踏まえて,今後もこのDIPの機能を解明し,癌細胞の分化における役割を検討していく予定である.
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