研究概要 |
MAP kinase(mitogen-activated protein kinase)にはERK、p38、JNKの3つの群が存在することが知られている。これらの細胞内情報伝達系は各種ストレス、熱ショック、cytokineによって活性化され、種々の分化、増殖、細胞死(アポトーシス)に関与しているといわれる。特にERKは細胞の増殖に、JNK、p38は細胞死に重要な役割を果たすと考えられている。本研究では脳虚血による神経細胞障害にMAP kinaseが関与しているか否かを検討した。遅発性神経細胞死の生じるラットの一過性前脳虚血モデルを用い、ERK,p38,JNKのリン酸化が、神経細胞死に至る過程でどのように変化するかを検討した。最も虚血に脆弱な海馬CA1では、早期(5分)の急速なERKのリン酸化と6〜48時間の持続的亢進がみられたが、その他の部位では早期のリン酸化しかみられなかった。また、虚血耐性条件化では、海馬CA1で極軽度の持続性のリン酸化亢進を認めた。JNKに関してはCA1と海馬歯状回で30分後にリン酸化の一過性亢進がみられた。p38は皮質で5分後にリン酸化の亢進がみられた。海馬歯状回、皮質では本モデルで神経細胞障害がみられないことから、JNK、p38のリン酸化が直接的に神経細胞死と関連している可能性は低いと考えられた。一方、ERKについては、海馬で特異的に持続性のリン酸化亢進がみられた。また、虚血耐性条件では同部位でのERKの持続性リン酸化亢進が軽度であり、高度な持続性リン酸化が細胞死と関連している可能性が示唆された。しかし、虚血後には蛋白合成の抑制が高度で、ERKがtranscription factorを介して細胞内情報伝達機構を制御していることを考慮すると、直接的な関連には問題が残る。今後は特異的抑制剤、遺伝子変異動物などを用いた更なる検討が必要と考えられた。
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