研究概要 |
神経線維腫症2型(NF2)は多発性頭蓋内良性腫瘍を伴うことを特徴とする遺伝疾患で、患者の予後は極めて悪い。その原因遺伝子(NF2遺伝子)の欠失・変異は、非NF2患者の散発性腫瘍にも高頻度で起こっており、NF2遺伝子産物merlinが細胞内で腫瘍抑制分子として重要な機能を果たしていることが示唆される。merlin分子の関わる細胞内シグナル伝達・腫瘍抑制機構を明らかにする目的で、NF2の遺伝子変異・翻訳後修飾解析、正常および変異merlinの細胞内局在機構,merlin会合蛋白質の同定・相互作用,及び結合蛋白欠損細胞におけるmerlinの動態を解析した。(1)正常merlinは、細胞質辺縁部の細胞間接着部位や細胞質突起のみならず、細胞質内全体にbleb状の凝集塊を形成して発現した。一方、NF2患者cDNAより得られたexon2,2-3,7を欠如する変異マーリンは主に核、及び核周囲に局在し、発現細胞の付着性を低下させた。(2)merlin分子の高変異部位であるN末端側に3ヵ所の核外輸送シグナル(nuclear export signal;NES)配列を検出し、NES特異的核外輸送阻害剤処理により、細胞内発現正常merlinの核蓄積現象を見出した。(3)merlinの高変異部位(294,298)に蛋白分解酵素(カルパイン)による限定分解部位を検出した。(4)merlinに特異的に結合する5種の細胞内蛋白質(p165,p145,p125,p85,p70)を検出し、p125はpoly(ADP-ribose)polymerase(PARP)、p85,p70はKu-antigen p85,p70(Ku-85,70)、であることが判明した。(5)merlinはその高変異部位であるN末端側(19-339)を介してPARP,ku-85,ku-70と結合し、PARPのpoly(ADP)ribose polymerase活性を上昇させ、merlinのN末端側にpoly(ADP)ribsyl化を誘導した。(6)PARP-/-MEF細胞で過剰発現したmerlinは細胞質にブロードに局在し、LMB処理によってもその局在の変化は認められなかった。以上の結果からmerlinは細胞膜-細胞質-核間をシャトルする分子であり、その高変異部位を介する各種膜・細胞質・核分子との相互作用によって細胞内局在・活性を制御しておりDNA損傷修復、細胞周期、細胞死の腫瘍抑制シグナルに関わっていることが考えられた。
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