研究概要 |
股関節の臼蓋唇は臼蓋縁全周性に縁取る線維性の膠原線維の構造物であるが、その役割についてはあきらかではない。多くの研究者がわずかな弁作用、寛骨臼の深さの増大という推察をしているが、現在までのところ臼蓋唇の決定的な役割は謎のままである。 ところで,股関節臼蓋唇は先天性股関節脱臼の整復困難例において臼蓋と大腿骨頭の間に介在し、しばしば整復を障害する因子のひとつとして知られている。この介在した臼蓋唇についてSomervillc(1967)は切除しなければ大腿骨頭の求心性が得られないことを述べているが、一方で、臼蓋唇を切除した症例においては,寛骨臼の発育が非切除群にに比べて劣るとの報告も散見される。 東(1981)は多くの動物実験の論文があたかも臼蓋唇が存在するかのように記載されていることに疑問を持ち、実験動物の股関節を調べ、ヒトと同様の臼蓋唇を持つ動物は霊長類のみであると報告した。そのことより我々はニホンザルの幼獣の股関節を用い臼蓋唇の切除を行なうことで、股関節の臼蓋唇切除が直接、寛骨臼の発育に影響をおよぼすのかについてあきらかにすることを目的とした。 生後1年未満のニホンザル10例に対して,片側の股関節臼蓋唇の切除を施行した。切除した臼蓋唇は組織学的に検索し,臼蓋軟骨を含まず切除した5例をA群,臼蓋軟骨を含んで切除した5例をB群とした。その後,性成熟を基準に切除後平均3年4ケ月で深麻酔下にて両側の股関節を一塊として摘出後,肉眼,X線および組織観察を行った。 A群では,術側にて大腿骨頭靱帯の延長を1例認めたのみであったが,B群では臼蓋軟骨の変性を3例,大腿骨頭の扁平化を2例認め,特に寛骨臼径の縦径,横径は術側で有意に増大していた。臼蓋唇との接合部辺縁の臼蓋軟骨は股関節の安定性に不可欠であり,臼蓋発育にも関与していることが推察された。
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