研究概要 |
我々はこれまで虚血性肝障害の機序解明とその対策について研究を進めてきた.今回の科学研究費補助研究は,類洞内皮細胞破綻から進行する虚血性肝障害の機序解明とアポトーシス抑制遺伝子であるBcl-2を用いた肝保護の可能性(Bcl-2の細胞内局在)について行われ,以下の結果を得た. 1.遷延する肝虚血によって生ずる肝障害は、肝実質細胞がmidzoneを中心に過酸化水素を産生することから始まり,過酸化水素は類洞内皮細胞を特異的にアポトーシスに導く. 2.過酸化水素産生は特異的キサンチンオキシダーゼ阻害剤である(-)BOF4272前処置により抑制されたことより,過酸化水素産生はキサンチンオキシダーゼ由来であることが証明された. 3.類洞内皮細胞の破綻した領域より末梢の領域では肝虚血が進行し,肝障害が進行してゆく. 4.アポトーシス抑制遺伝子であるBcl-2はこれまでラット肝組織にはほとんど存在しないといわれていたが,ラット肝細胞での発現をはじめて証明した. 5.Bcl-2の細胞内分布を明らかにした.Bcl-2はミトコンドリア,小胞体,核に存在した. 6.Bcl-2はこれまでミトコンドリア外膜に存在し,ミトコンドリアの膜電位を維持することによってアポトーシスを抑御するとされていたが,Bcl-2はむしろミトコンドリア内膜に多く存在した. 以上の結果から虚血性肝障害の抑制には類洞内皮細胞保護が重要であり,ミトコンドリアBcl-2を操作することによる肝保護の可能性が示唆された.
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