研究概要 |
平成10・11年度にわたりenflurane(E),halothane(H),isoflurane(I),sevoflurane(S)の麻酔薬が、それぞれ、肝に及ぼす影響(障害と修復機序)をラットを用いて組織化学的に検討した。ラットは、無処置(N)群とphenobarbitalを投与した(PB)群に分け、100%,21%,10%酸素下に、各々の麻酔薬をラットの1MACにて別々に2時間被曝させた。被曝7日後まで肝を経時敵に摘出し、パラフィン包埋・薄切後種々の染色を施して、一般的な組織・細胞構造、細胞内多糖類、actin線維、apoptosis、rRNA、浸潤細胞の同定、細胞増殖について検討した。 (結果)100%と21%酸素下での各麻酔薬の被曝では、両群ともに変化は認められなかった。 10%酸素下でのN群のうちEまたはS被曝では、変化は認められまかったが、HおよびIは、被曝直後に中心静脈(CV)から門脈(PV)に向かって1/3から2/3の範囲がPAS染色陰性を呈し、12時間後には健常像に回復した。しかし、PB群は、各麻酔薬とも被曝直後にCVからPVに向かって1/3から2/3の範囲がPAS染色陰性となりrRNAも消失した。PAS陰性部は、12時間から2日後に空胞変性を呈したのち空胞が消失し7日後に健常像に回復した。 各麻酔薬は、ともに被曝から7日後まで細胞増殖は見られず、apoptosisも被曝1〜2日後に空胞の外側周辺に散見された。被曝後CV域の変性部位に出現した浸潤細胞は、単球系の細胞であった。各麻酔薬の被曝に伴う変性の度合いは、H>E>I>Sの順であった。細胞内のactinの動態は、変性部位の細胞が極端な空胞壊死を生じたために把握できなかった。 (結語)吸入麻酔に伴う肝障害の原因については種々の説があるが、本研究結果からは、各麻酔とも肝の血流量を極端に減少させ、特に、CV域が無酸素状態に陥ったことが主な要因と考えられた。また、修復機序は、変性細胞が単球系細胞による処理や血流によりCVへ除去された後にPV域の細胞が、肝細胞索に沿って再配列したものと考えられた。
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