研究概要 |
本年度は,ヒト動脈におけるα_<1a>-アドレナリン受容体並に同mRNAのsubtypeの性質、量や局在を調べた。標本は腎細胞癌並に腎盂腫瘍症例で腎摘をする際に摘出した腎動脈(29症例分)を用いた。腎動脈標本は主動脈部と分岐動脈部に分けてそれぞれの実験に供した。受容体については張力実験で、またmRNAについては分子生物学的手法(RNase protection assayとin situ hybridization法)で検討した。従来ヒト動脈のα_1-アドレナリン受容体はα_<1b>-subtypeが優位と考えられていたが、腎動脈の張力実験からはα_<1A/L>-受容体が優位であった。即ちα_<1A>-アドレナリン受容体の特異的阻害剤であるKMD-3213や塩酸tamsulosinによる検討では、容量依存症にノルアドレナリンによる収縮を阻害した(α_<1A>-subtype)。またprazosinに対する親和性は低く、pA_2=8.8であった(α_<1L>-subtype)。RNase protection assayとin situ hybridization法によるmRNAの検討では、α_<1a>-subtypeが主であった。mRNAの局在はいずれも動脈中膜の平滑筋層であった。腎動脈の部位による受容体並びにmRNAの比率差は認められなかった。しかし、α_1-受容体mRNAの量はα_<1a>-subtypeでも50fgから1,000fg程度であり、次いでα_<1d>-subtypeが多く認められた(100fg以下)。α_<1b>-subtypeはほとんど検出されなかった。これらのmRNAの量はいずれもヒト前立腺に比べて少なく、約1/100量であった(Nasu,K.,Moriyama,N.,et al.,Br.J.Pharmacol119:797-803,1996)。このことより前立腺肥大症で使用するα_<1A>-アドレナリン受容体阻害剤でも低血圧、特に起立性低血圧をを起こしうることが示唆された。なお、年齢のよる差は症例数の関係で統計的処理ができなかったために割愛した。
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