研究概要 |
近年,様々な悪性腫瘍においてG1/S境界領域や紡錘体形成チェックポイントの制御に関わる遺伝子の変異が確認されており,発癌や浸潤・転移といったいわゆる癌の進展との関連性が注目されている。本研究ではヒト腎細胞癌の発生や進展にこれらの細胞周期関連遺伝子が関与しているか否かを調べることを目的として,原発腫瘍及び樹立細胞株を対象として解析を行った。摘出手術時に得られた原発腫瘍20検体,同一患者からの正常腎組織,転移組織3検体および樹立細胞株10株を用いて,G1/S境界領域の制御遺伝子であるp21,p33,また,紡錘体形成チェックポイント遺伝子であるBUB1,MAD2の4種類の遺伝子についてRT-PCR法により発現を解析した。その結果,p21については17検体,p33は10検体において解析が可能であった。これらのうちp21は15検体において発現が認められた。また,p33は解析した全ての組織において発現が検出された。細胞株ではp21,p33共に一株を除く9株全てに発現が認められた。このようにp21,p33については解析した殆どの検体において発現が検出されていることから,腎癌の発生・進展には関連性がないものと考えられる。一方,紡錘体形成チェックポイント遺伝子であるMAD2については22検体において解析ができ,そのうち12検体に発現が認められなかった。また,BUB1については3種類のプライマーを用い,それぞれ22検体,16検体,16検体において解析を行ったが,これらのうち第1プライマーでは21検体(95%=21/22),第2では14検体(87%=14/16),第3では13検体(81%=13/16)において発現が認められなかった。紡錘体形成チェックポイント遺伝子は分裂細胞において,染色体の娘細胞への分配を監視しており,もし,これらの遺伝子が機能を失うと染色体異常が生じても監視機構が作動せず,染色体異常をもつ細胞が形成されることになる。これが結果として細胞の悪性化を導くと考えられる。今回の解析においてBUB1,MAD2の発現消失が高頻度に認められたことは腎細胞癌の発生初期において何らかの関与を有している可能性がある。
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