研究概要 |
近年,腫瘍細胞表面上のcostimulatory moleculeであるB7-1の発現が腫瘍特異的免疫反応を誘導することを示す報告があり,costimulatory moleculeを発現するように修飾した腫瘍細胞が強力な腫瘍ワクチンとして使用可能なことを示唆している。そこで,われわれはレトロウィルスベクター系を用いてBALB/cマウスに自然発生した腎細胞癌細胞であるRenca細胞にB7-1遺伝子を導入した。MFGレトロウィルスベクターによって,約60%の細胞がB7-1遺伝子産物を発現した。B7-1の導入は腫瘍細胞表面のMHC抗原の発現やin vitroにおける腫瘍細胞の増殖に影響を与えなかったが,in vivoにおける腫瘍形成能を減弱させた。B7-1遺伝子を導入したRenca B7-1細胞をワクチンとして用いた時,遠隔部にある腫瘍の増殖はやや遅延したが,対照として用いたRenca親株やlacZ遺伝子を導入したRenca lacZ細胞との間に顕著な差は認められなかった。さらに,Renca B7-1細胞とサイトカインを分泌するBALB/c3T3細胞を併用した場合でも,著明な抗腫瘍効果は認められなかった。これらの結果から,B7-1遺伝子の導入はマウス腎細胞癌細胞の腫瘍形成能を減弱させるが,サイトカインを併用しても腫瘍ワクチンとして十分な全身的な抗腫瘍免疫反応を惹起するには至らなかった。治療に用いるためには,B7-1発現腫瘍細胞の選別,適切なサイトカインや他のcostimulatory moleculeとの併用など,さらなる検討が必要がある。
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