アンドロゲン・レセプター(AR)の本体は、リガンド(アンドロゲン)依存性の転写因子である。すなわち、アンドロゲンと結合して活性型となったARは、核に移行し、標的遺伝子の転写調節領域にあるandrogen responsive element(ARE)に結合することにより転写因子として機能する。アンドロゲン依存症の前立腺癌およびアンドロゲン・レセプター(AR)の突然変異によるアンドロゲン非依存性癌に対し、AREのおとり型核酸(デコイ)によってARの転写因子活性を競合する治療の可能性を検討した。 AREデコイとしてAREの共通配列を有する23merの2本鎖オリゴヌクレオチドを合成し、コントロールとしては2塩基に変異をいれたAREデコイおよびestrogen responsive element(ERE)デコイを用いた。 まず、ARの変異を有するもののアンドロゲン反応性を保持している前立腺癌細胞LNCaPから核蛋白を抽出した。AREデコイをプローブとしてゲル・シフト法を行い、核蛋白とAREデコイによる特異的DNA-蛋白結合反応によるシフトを認めた。さらに、抗AR抗体によりスーパーシフトすることにより、これがARとAREデコイの特異的結合であることを示した。 次に、アンドロゲン存在下(DHT 10^<-9>M)で培養中のLNCaPにAREデコイをリポフェクション法で導入した。導入24時間後、染色体DNAの断片化およびin situ end-labeling法により、アポトーシスが誘導されることを確認した。 AREデコイは、抗アンドロゲン療法としては作用点が最も下流にあり、ARの機能異常に基づくアンドロゲン非依存性癌にも有効であると考えられる。前立腺癌細胞への導入効率を高めることにより、有効な治療手段となりうるものと考えられる。
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