研究概要 |
【目的】ラット前立腺癌の転移抑制遺伝子として同定されたKAI1(カイワン)遺伝子が、ヒト前立腺癌に対しても同様に転移を抑制するかどうかを明らかにし、ヒト前立腺癌の転移抑制に関する遺伝子治療の臨床応用の可能性を探る。 【方法】アンドロゲン反応性ヒト前立腺癌細胞株LNCaP(KAI1発現なし)にKAI1発現プラスミドをトランスフェクションし、stableなトランスフェクタント(LN-K)を樹立した。対照プラスミドを導入したLN-MとオリジナルのLNCaP(LN-O)も実験に用いた。KAI1発現はノザンブロットと免疫抗体染色で確認した。 【結果】LN-KはLN-O,Mに比べてやや増殖速度が遅いものの、アンドロゲン反応性は保たれていた。in vitro invasion assayでは、LN-Kの浸潤能はLN-O,Mに比べて著明に低下していた(P<0.01)。LN-O,M,Kをそれぞれ雄SCIDマウスの前立腺背側葉に注入後、マウスの血清前立腺特異抗原がl00ng/mlを越えたとき解剖し、転移の有無を組織学的に検索した。LN-O,M注入群では、約75%の前立腺内に腫瘍を形成し、そのうち約75%の骨盤内リンパ節と約25%の肺に転移が認められた。一方、LN-K注入群では、前立腺内腫瘍形成は約20%と減少しており、骨盤内リンパ節および肺転移は全く認められなかった。 【結論】KAI1を発現していない前立腺癌細胞にKAI1を導入すると、転移を完全に抑制できるばかりでなく、造腫瘍性をも減少させる可能性が示唆された。将来的には、前立腺限局癌に対して経直腸的にKAI1発現ベクターを導入すると、腫瘍の増殖と転移を抑制できるようになるかもしれない。
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