研究概要 |
(目的)Differential display法を用いて腎細胞癌に特異的,あるいは高発現する遺伝子の単離を試みた。その結果,腎細胞癌に高発現する4個の遺伝子を単離した。得られた遺伝子の一つ,Thymosin beta-10は正常腎組織に比して,腎細胞癌において高発現であることが明らかであったため,抗体を作製し,腎細胞癌のマーカーとしての有用性について検討した。 (材料と方法)腎細胞癌,正常腎組織より抽出したmRNAを材料とし,5´側20個,3´側2個のプライマーを用いたRT-PCRを行い,ポリアクリルアミド電気泳動によりその産物を比較した。発現に差の認められたバンドの遺伝子を抽出し,塩基配列を決定し,既知の遺伝子との相同性をNCBI DNAデータベースにより比較検討した。また同時にNorthern blot法を実施して正常腎組織と腎細胞癌における発現を比較検査した。その結果得られたクローンの一つはThymosin beta-10をコードしており,腎細胞癌に高発現であることが確認された。そこでThymosin beta-10のアミノ酸配列の一部についてペプチドを合成し,これを家兎に免疫し,抗体を得た。得られた抗体をペプチドアフィニティーカラムにて精製し,一部はビオチン化を行い,これら抗体を用いたsandwich ELISA法によるThymosin beta-10の検出を試みた。 (結果)Differential display法により単離したクローンのうち,4個はNorthern blot法にて腎細胞癌に強く発現していた。これら4つの遺伝子は既知の遺伝子との相同性を比較したところ,Thymosin beta-10, HLA-DR alpha chain及び残り2つは未知の遺伝子であった。Thymosin beta-10はNorthern blot法において,ヒト正常組織では,脳,肺,小腸,大腸に発現が観察された。同様に腎細胞癌で発現することから,Thymosin beta-10分子の一部についてペプチドを合成し,これを抗原として家兎抗体を得た。ペプチドアフィニティーカラムにて抗体を精製し,一部はビオチン化を行い,これら抗体を用いたsandwich ELISA法により,腎細胞癌,正常腎組織の可溶化産物,腎細胞癌株培養上清を対象として抗原の検出を試みたところ,腎細胞癌組織,腎細胞癌株培養上清から明らかに抗原を検出することが出来た。 (考察)Differential display法は異なった遺伝子発現の検出に非常に有効な方法であると思われた。Thymosin beta-10は腎細胞癌に高発現しており,腎細胞癌のマーカーとして有用であることが示唆された。
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